暗い夜空。

新月の日。

星だけキレイに輝いて・・・・








新月の夜








「アッシュ!」

城内に主の声が響いた。
銀の髪のヴァンパイアだ。
赤黒い羽をたたんで、真っ黒な服をバサバサ揺らして、少し暗めの廊下をバタバタと歩く。

「アッシュ!!!」

何度呼んでも、そのヴァンパイアの呼ぶ“アッシュ”は返事を返さない。
そして、代わりに酷く害を受けたという顔で、包帯だらけの青年が顔だけを覗かせた。

「何なのさ、ユーリ。さっきからアッシュアッシュって・・・」

「・・・スマイル・・・」

ヴァンパイアはユーリと呼ばれ、包帯の青年はスマイルと呼び返された。

「いや・・・アッシュの姿が見当たらなくて・・・」

神経質だナァ、とスマイルは小さく呟いた。

「アッシュのお出かけは今に始まったことじゃないし、夕方時なんだから買い物にだって行くでしょが。」

キレイで、滅多な事では驚くこともしないユーリの顔が、なんだかすごく情けなく見えた。
そう、アッシュと呼ばれる人物は、ユーリにとってそれだけ重要な人物。
普段はたいそうぞんざいに扱われているのだが、いざ姿が見えないとすぐこれだ。
スマイルにしてみれば、もう、飽き飽きするような光景だった。

「しかし・・・」

「分かった分かった!ボクが探しに行くから、ね!それでいいでしょ?」

ユーリの長く深いアッシュへの愛など聞いていられない。
スマイルはユーリの言葉をさえぎって、とっとと玄関ホールに向かって走った。
その間、やはり納得の行かない顔をしていたユーリを一人残して。










「まーーったく、聞いてられないよね、ユーリの惚気話なんかさァ」

誰に話しかけるでもなく、スマイルは夜空を仰いでそう言った。
ふと見上げた空にはぽつぽつと小さな星の光。
ただ、月が見当たらなかったあたりはいつもと変わらない空だ。
月が見当たらないのが変わっているわけではないが、どうしても特別な日であるために、特別視してしまう。

「今日がお出かけ日よりなコトくらい分かってるだろうにさ。」

だって、アッシュは狼男なんだから。

“アッシュ”は狼男。
そう、狼男は満月の夜、強制的に狼の姿に変身してしまう。
そのため、アッシュは新月の日以外は夜に出歩くことができない。
勿論、狼だから夜行性だし、夜の散歩は大好きだ。
しかし、狼の姿で外を歩いたりしたら、ユーリが・・・

どこを歩いたとも分からん足で城に入るな!汚れるだろう!

ノミがいるかもしれないだろう!ちゃんと人の姿になるまで入城禁止だ!

などと言うのだ。
アッシュもその言葉を忠実に守って、こうして新月の夜にしか出かけない。

「あーあ。でも、どこを探そうかなぁ・・・。散歩してるアッシュなんてそう簡単には・・・・」

・・・・・・

スマイルが目線を下ろした先に見えるは、人間界のスーパーのチラシ。
どこかで見たことのある肉きゅうのマーク。

そう、間違いなくアッシュの落としていったものだ。

「アッシュってば、ホントあわてん坊だよねー」

アッシュの落として行ったらしいチラシを見ると、「特売」と書かれた部分に肉きゅうマークが着いていた。
特に、卵や牛乳など、よく使う材料はバッチリと。


そして、森から一人の姿が消えた。
ヒヒヒ、という声を残して・・・。












「2067円になります」

「はいっス」

レジをすばやく叩く手を止め、目の前の女性はアッシュに笑いかけた。
アッシュも元気よく返事を返し、最近購入した、まだ新しい財布の中をごそごそと探る。
少し多めに出して、お釣りを間違いなく貰う。
後ろにはまだたくさんの女性がいるため、アッシュはすばやく、きれいに整頓されたカゴを持ってレジから移動した。

「やっと終わったっス・・・・。」

ボソっと一人で呟く。
このスーパーマーケットに到着してもう2時間は経つ。
人間界に遊びに来てからは9時間は経っただろうか。
今日は朝の特売サービスの時間に人間界に来て、一度城に帰り、またすぐに出かけていろいろなお菓子屋さんを巡って歩いた。
最近はフランスでお菓子を学んでお店を開くパティシエが当たり前になってきて、そこらをフラフラ歩くだけで本格的な勉強ができる。
新月の日はユーリの理解もあり、大体オフ。
朝からいろいろなところに出かけ、料理の勉強をしたりする。
今日はスーパーのチラシを見つけたので城を往復しながらその習慣を行った。
それは人より体力のある狼男のアッシュにとっても、疲れる一日だった。
が、とても有意義なものになった。
今から帰ってユーリとスマイルに美味しいご飯を作らなくては。
安く調味料を仕入れられたため、質のいい食材がたくさん手に入った。
今日はユーリのなじみのある料理でも作ってみよう。喜ばれるのかどうかは分からないけど。
ユーリはルーマニアという国が気に入っているらしい。あそこの料理はちょっと肉気が多すぎる。
デザートは爽やかに、ゼリーなどでしめたいところだ。
いろいろ頭の中で想像しながら、両手に袋を提げて自動ドアを通った。

「あ、いた!アッシュ!!」

ふいに呼ばれて顔を上げる。

「スマイル!どうしてここに?」

突然目の前に現れた人物に、驚いて危うく荷物を落としかけた。
包帯ぐるぐる巻きのその姿から、よく包帯男と勘違いされがちだが、実際は透明人間のスマイル。
わざわざ透明にならなくてもいいのに、姿を隠したままアッシュを探しに来たらしかった。

「アッシュ、これ落としていったからさぁ、まぁ、多分ココかなって」

ピラピラと森で拾った肉きゅうマークの目立つチラシをちらつかせる。
アッシュは、ああ、と納得して両の手を合わせた。

「それより、ユーリがね、アッシュがいないーって、城中ウロウロしてるよ。早く帰って止めてほしいな。うるさいからさぁ」

静かに本も読めないよ。
そう、スマイルはアッシュに伝えた。
アッシュは小さく、申し訳なさそうに頭をかいた。
いつもより出かけている時間が長かったせいだろうな、と。

「あ!そーだ!ギャンブラーZのお菓子買ってくれた?ラムネ入ってるやつ」

ころころとよく話題を変えるものだ。
大好きなギャンブラーZの人形のついたお菓子の話をしだす。
スーパーやコンビニに行くと大抵置いてあるお菓子で、スマイルも敵やらロボットやらたくさん集めていた。
勿論、アッシュがスーパーで買い物をしたときは頼んで買ってきてもらうので、今日は頼んではいなかったがどうか、と尋ねる。

「あ、はいっス!ちゃんと買っておいたっスよ」

「それじゃ、早く帰ろう!何が入ってるか早く見たいしさ!お腹もすいたし」

城に帰ってからお菓子を開けるのが鉄則の為、ここでは開けられない。
スマイルはアッシュから荷物を一つ預かって、2歩ほど前を歩き出した。
特別な通路を通って、メルヘン王国へ向かう。
ディナーの話をしながら二人は城へと戻っていった。





「アッシュ!!」

門を開けると、ただいまと言う前にユーリの声が響いた。

「あ、ただいまっすユーリ」

「こんな時間までどこへ行っていた!もう7時をまわっているではないか!」

まるで親のようにガミガミとアッシュを叱るユーリ。
そんな二人の間に入って、7時って・・・子供じゃないんだから・・・と、言いたいが、口が裂けても言えない。
鋭い牙の餌食になるのはゴメンだ。

「とにかくさ、ご飯作ってよ、アッシュ。ボク、お腹ぺこぺこだよー」

キュルルとお腹を鳴らしてスマイルが言った。
それにはっとして、アッシュはユーリに軽く謝った。

「ごめんなさいでしたっス!じゃあ、オレ、今から急いでご飯作るっス!!」

そういうと、アッシュは厨房へ向かって走り出した。
走り去ったアッシュの背中を見送って視線を戻せば、何かを抱き損ねた格好のまま固まっているユーリがいた。
何か殺気のようなものを感じる。

「・・・んー・・・ドンマイ、ユーリ☆」

「貴様が腹など空かすから・・・・!」

これは怒り浸透中だと察して、少し茶目っ気を混ぜて一言言えば、ユーリのスマイルよりは小さな手がその細めの首を絞めた。

「わわわっ絞まっちゃう絞まっちゃう!でも、ユーリもアッシュのご飯早く食べたいでしょ!」

ぺしぺしと、さほど強く締めているわけでもないユーリの腕を叩いて、叫ぶように言う。
ユーリが手を離し、大きくため息をつく。
今日は朝からアッシュがいなかったため、飲み物以外口にしていない。(アッシュが用意はしていたが、スマイルがユーリの分まで先に食べてしまった)

「へへー。今日はユーリの好きなモノ作るんだって〜。良かったね〜」

からかいながら、スマイルは食堂の方へと逃げるように駆け出す。
振り返れば、いつものユーリにはあまり見られない優しい微笑みが見られた。
少し悔しい。

ボクだって、アッシュのこと大事に思ってるのになぁ

「よーし。こっそりアッシュのトコいっちゃおーv」

「何?!ま・・・まて、スマイル!!」






バタバタと、二つの足音が廊下を走った。

音は、星達にだけ届いたのだと、静かな夜が呟いた。





















後書き。


なんじゃこりゃ。ユリアじゃないよぅ(笑)
とりあえず、お初小説です。
今回は、この3人の位置関係みたいなものを書きたかっただけです〜〜〜〜〜
ごめんなさーーーいっ(泣)




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